中枢神経系胚細胞腫のなかでも高悪性度非ジャーミノーマ胚細胞腫(NGGCT)と呼ばれる一群は、未だ治療抵抗性/合併症に苦しむ症例が多く新規治療法の確立が望まれる。そこで今回我々はNGGCTに対する新規治療薬を同定すべく、ヒト精巣由来の胎児性腫瘍細胞株であるTcam2細胞 (Ras/KITÄi0活性型変異なし) と、脳転移したヒト卵黄嚢腫瘍のPDXから我々の研究室で樹立したYST細胞 (Ras/KITÄi0活性型変異あり) をモデル細胞として用い、それらに対するc-Kitシグナル分子阻害薬群の効果を検証した。その結果、両細胞株に対するin vitroでの有意な殺細胞効果が3種のマルチキナーゼ阻害剤においてのみ確認された。また、活性型KITÄi0を恒常発現させたTcam2細胞でも同薬剤群による効率的な細胞死誘導が確認されたことから、これら薬剤が様々なNGGCTに対する有効な治療薬となり得る可能性が示唆された。
コーニングインターナショナル株式会社
1型糖尿病(T1D)と2型糖尿病(T2D)は、自己免疫による破壊または進行性の機能障害、それに続くインスリン産生膵臓β細胞の喪失を特徴とする疾患である。ヒトiPS細胞(hiPSC)の分化によるインスリン分泌膵島様細胞の作製は、糖尿病や疾患モデルにおける治療用途の有望な代替細胞源となっている。最近の臨床試験の結果によると、iPS細胞またはES細胞由来の膵島細胞の移植が、T1DおよびT2Dに対してより効果的で広く利用可能な治療選択への道を切り開く可能性があることを示唆している。本報では、Elplasia容器を用いてhiPSCを膵島様オルガノイドへ培養と分化をさせるためのハイスループット培養プラットフォームについて示す。作成した膵島様オルガノイドは、膵島特異的α細胞、β細胞からなる不均一な混合体で、膵β細胞特異的遺伝子およびタンパク質の発現が増強した。また、高グルコース濃度下において膵島様オルガノイドはインスリン分泌量の増加が認められた。
国立がん研究センター先端医療開発センター新薬開発分野
2)東京大学大学院新領域創成科学研究科先端生命科学専攻
急性リンパ性白血病(ALL)は小児・成人に共通する主要造血器悪性腫瘍であり、CNS 浸潤は再 発・治療抵抗性の主要因であるが、現行の髄腔内化学療法は侵襲性や神経毒性の課題を抱えている。 本研究では、ヒト ALL 患者由来細胞株を用い、同一株内で IL-7R 発現量を制御して IL-7R 高発現 (IL-7R-Hi)および低発現(IL-7R-Lo)細胞を作製し、生体内イメージングと免疫組織学的解析によ り脊髄から脳への CNS 浸潤動態を追跡したところ、IL-7R-Hi 細胞は IL-7R-Lo 細胞に比べ有意に脳 浸潤が亢進し、IL-7R が脳浸潤の重要因子であることを示した。さらにこれらの細胞株で RNA シー クエンシングを行い、CNS 浸潤促進に関与する新規遺伝子群を同定した。続いて、DNA インター カレーションおよびクロスリンク形成を誘導する PBD 二量体搭載抗 IL-7R 抗体薬物複合体(ADC) を開発したところ、IL-7R-Hi 細胞に特異的に結合・内在化し、CNS 浸潤モデルで完全寛解を達成し、 骨髄抑制や肝腎障害などの全身毒性はなく、高選択的かつ安全な治療効果を示した。
東京農工大学共同獣医学専攻
犬血管肉腫に対する新たな治療標的探索のための オルガノイドおよび同所性異種移植モデルの樹立
(Establishment of a canine hemangiosarcoma organoid culture method and mouse orthotopic transplantation model)
犬の血管肉腫(HSA)は血管内皮細胞由来の悪性軟部肉腫であり、再発と転移の頻度が高 い。臨床的には、HSA と良性腫瘍である結節性過形成(NH)が同時に認められる症例が多い。 HSA の新しい治療方法を開発するために、新たな実験モデルを開発する必要がある。本研究では HSA 腫瘍組織からの 2.5D オルガノイド(HSAo)を作製することに成功した。HSAo を用いた大 規模薬剤スクリーニング試験では、HDAC 阻害剤および ALK 阻害剤に高い感受性を示した。 次に、HSA と NH サンプルの RNA シークエンスを実施し、NH と比較して HSA でリソソー ム膜に関連するパスウェイの活性化が見られた。HSA において発現上昇が見られた PLAAT3、 MARVELD3 は、新たな治療ターゲットおよびバイオマーカーになる可能性が示唆された。 さらに、免疫不全マウスの脾臓に HSAo を移植することで同所性異種移植モデルを樹立し た。HE 染色より、摘出された組織は血管構造を模倣した腫瘍組織と充実性に増殖する腫瘍細胞が 観察された。同所性異種移植モデルから再度培養した HSAo を用いた薬物スクリーニング試験で は、元の HSAo と類似する感受性を示した。これらの結果から、本モデルが罹患犬腫瘍の本来の 特徴を維持していることが示唆された。
がん治療は外科的切除・放射線療法・化学療法の三本柱を中心に行われてきたが、近年では患者 自身の免疫システムを活性化して腫瘍を排除する“がん免疫療法”が第 4 の治療法として発展してい る。なかでも、がん微小環境における免疫抑制状態を解除することを目的とした抗 PD-1 抗体をは じめとする免疫チェックポイント阻害剤(ICI)は現在のがん免疫療法の中核を担っており、新規免 疫調整分子を標的とした治療法や、既存薬との併用療法に関する研究が活発に進められている。 創薬においては、動物を用いた in vivo での薬効ならびに安全性評価が不可欠である。これまで ICI の薬効評価にはシンジェニックモデルが広く用いられてきたが、マウスやラットではヒトと異なる 薬効や毒性を示す可能性がある。特に抗体製剤等の生物学的製剤においては種差が大きな課題とな っており、よりヒトへの外挿性の高い動物モデルが切望される。 近年では、NOG マウス等の重度免疫不全動物にヒト血液細胞を定着させたヒト化マウスが、ヒト 免疫細胞による反応を評価可能な in vivo モデルとしてがん領域でも広く活用されている。我々は、 ヒト細胞による移植片対宿主病(GvHD)の抑制を目的として作製した MHC クラス I, II 欠損 NOG マウス(NOG-∆MHC マウス)にヒト末梢血単核細胞(PBMC)を生着させ、独自に樹立した PDX (CIEA-PDX®)を皮下移植することで、ヒト免疫細胞とヒト腫瘍細胞との相互作用を評価可能な動 物モデルを構築した。 肺腺がん由来 PDX 2 株および大腸がん由来 PDX 2 株を用いてヒト腫瘍モデルを作製し、既存薬 である抗 PD-1 抗体製剤(KEYTRUDA®)を用いた薬効評価を実施した。評価に際しては、各 PDX 株に応じた試験系を構築し、評価動物の選抜基準を設定することで、再現性の高い試験系を確立し た。その結果、投薬により、肺腺がん株では腫瘍の縮小およびヒト CD8+ T 細胞の活性化促進を、大 腸がん株では間質から腫瘍実質へのヒト CD8+ T 細胞の浸潤促進を確認した。 以上より、PDX および PBMC 移植ヒト化マウスを用いたヒト腫瘍モデルによる ICI の評価系の有 用性が示唆された。今後は、さらなるがん種への展開を通じて、モデルの汎用性および安定性の向 上を目指した開発が求められる。
土橋悠1,今井順一1, 2,渡辺慎哉21)福島医大トランスレーショナルリサーチ機構,2)福島県立医科大学医療-産業TRセンター
我々は、東日本大震災復興プロジェクト「福島医薬品関連産業支援拠点化事業」の成果として、PDXマウス作製に適した274種類の患者由来凍結腫瘍組織(F-PDX)を樹立した。今回は、F-PDXの特徴および使用条件を紹介する。F-PDXは、患者から採取した腫瘍組織の一部を免疫不全マウスに移植・継代して作製され、病理組織学的および網羅的遺伝子発現解析により、がんの特徴を維持していることを確認されたものである。樹立過程で集積した遺伝子発現・変異データやFFPEを活用することで、試験に適したF-PDXを選択できるのが特徴である。F-PDXのチューブ1本には、マウス1匹に移植できる腫瘍量が含まれており、これまでに1,400本以上を分譲した。使用期間の制限やランニングロイヤリティがなく、継代による増殖も可能である。さらに、F-PDXを用いて新たに得られた成果に係る権利はユーザーに全て帰属する。
NCYMはMYCN遺伝子のアンチセンス鎖から転写される遺伝子で、胆管がんにおいて高発現は予後不良と関連する。本研究では、NCYMがオートファジーを活性化し胆管発がんを促進することを明らかにした。NCYM発現がRasシグナルと相関することから、KrasG12Dを発現するマウス胆管オルガノイド発がんモデルを作製した。NCYM過剰発現オルガノイドはKrasG12D単独に比べ高頻度(79%vs52%)で腫瘍を形成し、一方、日本人特異的SNP型(V71D)では腫瘍形成率が36%に低下した。長鎖RNAシーケンス解析では、野生型NCYMでオートファジー関連遺伝子群の発現上昇が認められ、野生型ではLC3の安定化が見られたのに対し、SNP型ではp62やオートリソソームの蓄積が観察された。これらの結果から、野生型NCYMはオートファジー促進を介して胆管発がんを進行させ、SNP型はそれを抑制することが示唆された。
安田拓斗1田中涼太1影山健2井上大輔1中西紘一1八田康佑1栗原重明1田内潤1西村貞徳1木下正彦1西尾康平1新川寛二1石沢武彰11
大阪公立大学大学院医学研究科肝胆膵外科学2大阪公立大学大学院医学研究科放射線診断学・IVR学
背景:膵神経内分泌癌(PanNEC)は極めて悪性度の高い予後不良な悪性腫瘍であるが,希少癌ゆえに治療法の開発は大きく停滞しており,新規治療薬の開発が喫緊の課題である.新規治療の開発において,細胞株や患者由来腫瘍異種移植モデル(PDX)が不可欠なツールであるが,PanNECの細胞株は1種にとどまっており,新規細胞株の樹立が期待されていた.今回我々は,PanNECの細胞株およびPDX樹立に成功したため,それらの生物学的特徴や薬剤効果について明らかにすることを目的とした.方法:PanNEC患者より採取した腫瘍組織を,免疫不全ラットの膵尾部へ縫着することで,膵同所移植の患者由来腫瘍異種移植モデル(PDX)を樹立した.さらに膵同所移植PDXの腫瘍および癌性腹水からそれぞれ細胞培養を行い,細胞株を樹立した.樹立した細胞株に対し,既存治療薬(Etoposide,Irinotecan, Cisplatin, Carboplatin)を用いて,CCK-8 assayにより薬剤感受性を評価した.結果:腫瘍および癌性腹水由来の両細胞株は共に半接着性を示したが,腫瘍由来細胞は接着後に平面状に増殖,腹水由来細胞はスフェロイド形成を伴う三次元的増殖形態を呈した.免疫染色では,原発腫瘍・PDX・細胞株間で主要蛋白の発現が一致しており,CCK-8 assayでは,いずれの薬剤も明らかな抵抗性は認められず,増殖阻害効果を認めた.結論:今回我々はPanNEC細胞株およびPDXモデルの樹立に成功した.数少ないPanNECの腫瘍モデルの樹立は,今後の新規薬剤探索に有用な前臨床基盤となり得る
今井康太1、青木弘良2、野崎彩1、山形豊21.
株式会社東陽テクニカ2.理化学研究所光量子工学研究センター先端光学素子開発チーム
【背景・目的】がんは遺伝子変異やシグナル異常にとどまらず、腫瘍微小環境(TME)との相互作用によってその悪性形質を獲得・維持している。しかし、従来の2次元培養ではこれらの複雑な相互作用の十分な再現が困難であることから、より生理的な3次元モデルであるスフェロイド培養への関心が高まっている。一方で、スフェロイド培養はピペッティングや培地交換などの操作により容易に破壊・損失が生じるほか、スフェロイド同士の融合や分裂によって形態が変化しやすく、安定した実験系の維持が難しい。これらの課題は、薬剤応答評価や細胞間相互作用解析の定量性を著しく損なう要因となる。これまで我々はアガロースゲルシェルとアルギン酸ゾルコアから形成される、アガロースゲル・マイクロカプセル(AGM)を開発した。AGMはがん細胞の3次元構造を安定的に保持しつつ、栄養・酸素拡散や共培養への応用が可能である。従来のエマルジョンによるAGM作製法は、簡便だが粒径分布が広いため、粒径の均一化が望ましい。特にAGMは、コアが大部分を占めるため、コアの均一化はAGM均一化に重要である。そこで遠心力を用いた吐出法によるアルギン酸コア均一化を試みた。【方法】はじめに遠心力によってアルギン酸を吐出するデバイスを設計・開発した。本デバイスは、50 mLチューブ、シリンジ、およびニードル等から構成され、無菌的に細胞を懸濁したアルギン酸を吐出できる。スイングローター遠心機を用いた約10分間の遠心により、ニードル先端から液滴状にアルギン酸が吐出され、チューブ下部のCa2+によってゲル化した。作製したアルギン酸コアの直径測定に加え、コア包埋後の細胞およびスフェロイドの生存率評価を行った。【結果・考察】作製したアルギン酸コア径は均一であることに加え、遠心加速度とニードル内径にてそのコア径を調節可能であった。包埋された細胞およびスフェロイドでは高い生存率を示した。本デバイスでのAGM径の均一性向上は、スフェロイド培養の標準化・スケールアップ・自動化を促進し、今後の創薬スクリーニングや再現性の高いがんモデル開発への応用が期待される。さらにはAGM径制御により、腫瘍の大きさやTMEを模倣した多様なモデルを構築でき、腫瘍進展過程や薬剤応答性のサイズ依存的な解析への貢献が期待される。
菅澤陽斗¹、市川恒也¹、藤井博之2,3、足達俊吾4、田中庸介5、小幡裕希6、庄司広和2,7、佐藤潤7、関根圭輔¹国立がん研究センター¹研究所がん細胞システム研究ユニット、2中央病院消化管内科、3中央病院臨床検査科、4研究所FIOCプロテオーム解析部門、5研究所細胞情報学分野、6研究所がん細胞内トラフィック研究ユニット、7中央病院先端医療科
希少がんは個々の症例の少なさ故に有効な治療法が確立しておらず、新たな治療戦略が求められている。本研究では患者由来オルガノイド(PDO)を活用した治療薬探索を目的とした。まず、希少がんの1つである小腸腺がんでPDOを5株樹立した。このPDOは、元の患者腫瘍の組織学的・遺伝的特徴を保持していることを確認した。既存の標準治療薬では効果が限定的であったため、薬剤スクリーニングを行った結果、有望な薬剤が同定された。その阻害剤はPDOの増殖を濃度依存的に抑制し、担がんマウスにおいても腫瘍の拡大を抑制した。さらに、プロテオーム・RNAシークエンスに基づき予測した薬剤との併用で顕著な相乗効果も確認した。これらの結果から、患者由来オルガノイドが希少がんに対する新規治療法開発の基盤となることが期待される。
福島県立医科大学医療-産業TRセンターではこれまで様々な腫瘍組織を培養可能な状態で凍結保存している。固形腫瘍に由来するサンプルを凍結保存する場合、組織片を1ミリ角以下のサイズに細切し凍結保存液と懸濁した後に緩慢冷却で凍結している。我々は凍結保存している腫瘍組織を用い、神経膠腫由来の細胞株の樹立を目指し培養を試みた。我々は最初に凍結保存組織の解凍から培養までのサンプル処理方法の検討を行った。検討した結果を元に42件の神経膠腫由来サンプルについて培養を行った。その結果、神経膠芽腫に由来するサンプルは16件中8件で継代数が20を超えるまで培養することができた。しかし他のタイプに由来するサンプルでは多数回の継代が出来なかった。神経膠芽腫では細胞株の樹立を目指しさらに継代を続ける予定である。また他のタイプでの培養方法を検討予定である。
福江玲菜1,島田和弥1,寺正行11
東京農工大学大学院工学研究院
ハイドロゲルは細胞の三次元培養の足場材として再生医療や創薬研究に広く用いられている。特に細胞毒性を示さず生理条件下で迅速にゲル化できる材料は、生体適合性に優れた培養系の構築に不可欠である。また、生体組織には異なる細胞や細胞外マトリックス(ECM)が隣接して機能する非連続的な界面構造が存在し、これを模倣できる人工ECMの開発は、組織工学や細胞挙動解析において重要である。本研究では、アジド修飾ヒアルロン酸と水溶性歪みジインを用いたクリック架橋反応により、細胞封入可能なヒアルロン酸ベースの「クリックゲル」を作製した。マウス筋芽細胞を封入したゲルとRGD修飾ゲルを接着して培養したところ、培養7日後に細胞がゲル接着界面を越えてRGD修飾ゲル側へ浸潤し、かつ筋管へ分化する様子を確認した。以上より、細胞封入クリックゲルによる非連続的界面ECMモデルの構築に成功した。
秦詩雨1),安藤未来1),加藤大貴1),臼井達哉2),石井千尋2),渡部健太郎2),井口貴瑛1),カタリーナピント1)4),柴原隼斗1),小関翔馬1),豊田泰斗1,3),池田凡子1),加古貴大1),本井春香1),井坂凛1),西村亮平1),佐々木一昭2),中川貴之1)
1)東京大学大学院農学生命科学研究科獣医外科学研究室2)東京農工大学大学院農学研究院獣医薬理学研究室3)日本小動物医療センター4)Departmentof Veterinary Clinics, ICBAS-School of Medicine and BiomedicalSciences, University of Porto, Portugal
【背景・目的】伴侶動物のイヌは、ヒトがん患者と同様にクローン進化を経た自然発生腫瘍を生じることから、ヒト腫瘍と類似の腫瘍細胞内外ネットワークおよび腫瘍免疫微小環境を有し、新規薬剤のin vivo評価に有用な動物モデルと期待される。そこで本研究では、実験犬を用いて獣医療分野にて使用実績のない分子標的薬であるCDK4/6阻害剤Abemaciclibの投与量決定を目的とした。【材料方法・結果】実験犬にAbemaciclibを1日2回投与し、3段階(Dose1: 1.5 mg/kg(ヒト臨床用量の1/2), Dose2: 3.0 mg/kg, Dose3: 6.0 mg/kg)の用量漸増試験を実施した。Dose1および2にて有害事象は認められなかった。Dose3で用量制限毒性となるGrade3の肝酵素(AST)上昇を認めた。【考察・結語】結果よりDose2がイヌ臨床例に投与可能な初回投与量と考えられた。実験犬を用いた本アプローチにより、飼い主が飼育するイヌ臨床例(イヌ自然発生腫瘍モデル)に対して、新たな分子標的薬の投与量を決定できると期待された。
柴原隼斗1,4#塩田よもぎ4#水上清3加藤大貴1*井口貴瑛1秦詩雨1安藤未来1小関翔馬1加古貴大1本井春香1井坂凛1池田凡子1豊田泰斗1,2中川貴之1†近藤格4†*
1東京大学 大学院農学生命科学研究科 獣医外科学研究室2日本小動物医療センター3東京農工大学農学研究院 動物生命科学部門 獣医薬理学研究室4国立がん研究センター研究所 希少がん研究分野# equally first author, † equally senior author, * corresponding author
【背景・目的】マウスを用いた薬効評価試験の結果は、多くの場合ヒトの臨床試験で再現されない。イヌはゲノムレベルでヒトと相同性が高く、同様の組織型腫瘍が発生し、マウスに代わる動物モデルの候補である。本研究は、抗がん剤開発におけるがんモデルとしてのイヌの有用性を評価することを目的とした。【材料方法・結果】ヒト・イヌ・マウスの 1203 のがん関連遺伝子についてアミノ酸配列相同性をBLAST で調べたところ、イヌはマウスよりも高いヒトとの相同性を示した。さらに、ヒトとイヌの骨肉腫細胞株各 5 株に対して、FDA 承認薬を含む 223 種の抗がん剤の薬効を調べたところ、3 剤が共通して顕著な抗腫瘍効果を示した。【考察・結語】がん関連遺伝子について、イヌはマウスに比べヒトとの配列相同性が高く、そして骨肉腫細胞についてはヒトとイヌの両者に抗腫瘍効果を示す抗がん剤が認められた。抗がん剤開発のモデルとして、イヌの有用性は検討に値すると考えられる。
安藤未来1),池田凡子1),山本晴2, 3),加藤大貴1)*,臼井達哉2, 3)*,井口貴瑛1),秦詩雨1),小関翔馬1),柴原隼斗1),豊田泰斗1,4),永浦香里5),瀬戸口明日香5),平林美幸6),林宝謙治6),賀川由美子7),高橋尚大8),ChambersJames8),内田和幸8),西村亮平1),中川貴之1)
1)東京大学大学院農学生命科学研究科獣医外科学研究室2)AIRDEC mini株式会社3)東京農工大学農学研究院獣医薬理学研究室4)日本小動物医療センター5)どうぶつ総合医療センター6)埼玉動物医療センター7)NORTH LAB8)東京大学大学院農学生命科学研究科獣医病理学研究室* corresponding author
近年、がんゲノム医療が実臨床に実装され大きな成果を挙げている。しかし、がんゲノム変異のみに基づく薬効予測精度は完全ではなく、薬効評価系との併用により、さらなる予測精度の向上ができると期待される。犬猫の自然発生腫瘍は、人がん患者と同様の遺伝子変異や腫瘍免疫微小環境を有し、個別化医療開発のための前臨床モデルとして高い潜在性を有する。そこで本研究では、犬猫がん症例由来の腫瘍組織からオルガノイドを樹立し、各種分子標的薬に対する感受性を評価したところ、高い培養成功率で薬剤スクリーニングが可能であり、腫瘍ごとに特有の薬剤反応性が示された。したがって、本スクリーニングは、犬猫自然発生腫瘍モデルを利用した個別化医療の前臨床試験に利用できる可能性があると期待された。
小関翔馬1,加藤大貴1,伊東巧2,井口貴瑛1,秦詩雨1,安藤未来1,柴原隼斗1,加古貴大1,本井春香1,井坂凛1,池田凡子1,豊田泰斗1,3,高橋尚大4,チェンバーズジェームズ4,内田和幸4,清水秀幸2,中川貴之1
1東京大学大学院農学生命科学研究科獣医外科学研究室2東京科学大学総合研究院M&Dデータ科学センターAIシステム医科学分野3日本小動物医療センター4東京大学大学院農学生命科学研究科獣医病理学研究室
ヒトと同様の生活環境で自然発症腫瘍を生じるイヌは、ヒト腫瘍の病態理解を深める伴侶動物モデルとして注目されている。この特徴を活かし、近年、遺伝子変異の網羅的解析によりヒトとイヌの腫瘍を比較し、分子標的の同定や新規薬剤の評価が行われている。これらは主にWGS/WESによる解析が中心であるが、検体要件やコストの面で広く実装するには課題がある。そこで本研究では、FoundationOne CDxおよびNCCオンコパネルの対象322遺伝子の相同エクソン領域、FoundationOneCDxにおける融合遺伝子検出の対象36遺伝子の相同イントロン領域を標的とするイヌがん遺伝子パネルを設計した。本パネルを用いて、イヌFFPE腫瘍組織と末梢血のペア6例を解析し、既知のホットスポットを含む体細胞変異の検出に成功した。以上より、本パネルはヒトがん遺伝子パネルと整合した遺伝子セットによるイヌ腫瘍の評価を可能にし、今後の種横断的な比較解析の実用的基盤となりうると期待された。
骨肉腫はヒト・イヌを含む多様な動物種に発生する悪性間葉系腫瘍であり、薬剤の治療貢献度は限定的で新規治療法が求められている。トラベクテジンはDNAマイナーグルーブへの結合を介して抗腫瘍作用を示し、特定の融合遺伝子陽性肉腫で有効とされるが、融合遺伝子陰性肉腫への効果や骨肉腫への応用可能性は明らかでない。そこで本研究では、我々の樹立したヒト骨肉腫細胞株および他施設で樹立されたイヌ肉腫細胞株を用いてトラベクテジン感受性を評価した。さらに薬剤感受性アッセイにRNAシーケンスとプロテオーム解析を統合し、融合遺伝子の有無に依存しない感受性関連分子を探索した。その結果、「融合遺伝子の有無が感受性を決定する」という従来の前提を再考すべき新規分子的特徴が明らかとなった。本研究はヒト肉腫における作用機序理解を深め、獣医学腫瘍学領域を含む治療適応の拡大に資する知見を提供する。
塩田よもぎ1)、大﨑珠理亜1)、河野健太1)、SHU TINGTING1)、藤田生水2)、福田雅和2)、近藤格1)
1)国立がん研究センター研究所希少がん研究分野 2)ゼオンバイオソリューションズ株式会社
【背景・目的】Ex vivo薬剤感受性試験を社会実装するためには、薬効に影響しうる要因(培養条件、遺伝子発現)を理解し最適化する必要がある。本研究では、抗がん剤応答性と培養環境・遺伝子発現との関連を調べた。【方法】大腸癌細胞株DLD-1を二次元培養および足場の有無による三次元培養、さらに培地組成の異なる計5つの培養環境で培養した。各培養系における221種類の抗がん剤応答性を調べ、薬剤処置前後におけるRNA-seqによる遺伝子発現解析を行った。【結果】培養環境依存的に増殖抑制効果を示す分子標的薬が認められた。一方、それら分子標的薬の抗腫瘍効果は、対応する遺伝子および分子パスウェイと相関しなかった。培養環境の変化は細胞形質(増殖、幹細胞性、ストレス応答、ECM構築など)および遺伝子発現の変化を誘発した。【考察】抗腫瘍効果と培養環境因子・遺伝子発現の関連性は、抗がん剤ごとに体系的に理解する必要がある。
Modeling Rectal Cancer Lung Metastasis Using Patient-Derived Organoids Under Distinct Mechanical Niches
Tingting Shu1,2, Yomogi Shiota1, Julia Oosaki1, Kenta Kono1, Takashi Kondo1*.
1Division of Rare Cancer Research, National Cancer Center Research Institute, Tokyo, Japan.2Department of Medical and Dental Sciences, Graduate School of Biomedical Sciences, NagasakiUniversity, Nagasaki, Japan.
Background
Pulmonary metastasis is a leading cause of mortality in rectal cancer[1]. While the "seed and soil"hypothesis emphasizes niche-specific colonization[2], the lung's uniquely soft biomechanicalenvironment differs significantly from the stiff primary rectal tumor[3, 4].However, whether these low-stiffness physical cues actively drive chemoresistance remains poorly understood.
Objective
This study aims to determine whether the characteristic low-stiffness pulmonary microenvironmentdirectly modulates the phenotype and therapeutic responsiveness of patient-derived rectal cancer lung-metastatic organoids (PDOs).
Materials and Methods
This study is based on a patient-derived organoid (PDO) model established from a rectal cancer lungmetastasis[5]. Using hydrogel matrices with tunable mechanical properties[6], we will construct athree-dimensional culture system that recapitulates the low-stiffness pulmonary microenvironment aswell as the higher-stiffness conditions characteristic of other metastatic sites. This platform will enablea systematic evaluation of how biomechanical cues influence phenotypic remodeling and adaptivebehavior of lung-derived metastatic tumor cells.Under distinct stiffness conditions, we will compareorganoid growth dynamics, structural organization, and functional states, followed by preliminaryassessments of therapeutic responses to determine whether mechanical signals alter drugsensitivity.Multi-omics profiling combined with cell-level validation experiments will then be employedto identify key mechanotransduction networks responsive to stiffness variation and to elucidatemolecular pathways that shape the phenotype of pulmonary metastatic lesions.
Preliminary Results
We successfully isolated and expanded patient-derived organoids from the metastatic lesion. Brightfieldmicroscopy confirmed that the PDOs self-organize into robust 3D structures and maintain viability overserial passaging. This confirms the feasibility of using this patient-specific material for the proposeddownstream biomechanical assays.
Conclusion & Outlook
This study establishes a critical, biologically relevant platform to investigate the role of physicalmicroenvironments in metastasis. By reconstructing the "soft lung" niche in vitro, we aim to uncoverwhether biomechanical adaptation drives intrinsic chemoresistance, potentially identifying noveltherapeutic targets to sensitize metastatic lesions to treatment.
